遺産相続と成年後見制度 - 陽だまり福祉法務事務所
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遺産相続と成年後見制度

前回のコラム判断能力が必要な場面で遺産相続について触れましたが、今回はより詳しく解説したいと思います。

判断能力を失った人が相続人に含まれる場合、相続手続きは通常のケースと比べて複雑になります。この状況では、成年後見制度を活用してその人の権利を守りつつ、遺産分割を進める必要があります。

相続手続きにおける課題

通常、相続手続きでは相続人全員が参加して遺産分割協議を行い、合意に至る必要があります。しかし、判断能力を失った人がいると以下のような問題が生じます:

本人の意思確認ができない: 遺産分割協議内容を理解して同意しているのかを判断できない。もしくは、意思表示そのものができない。

法定相続分を侵害するリスク: 本人を除外した形で協議を進めると、本来受け取れるはずの財産が奪われる可能性がある。

手続きの遅延: 判断能力がない人の扱いをどうするか決めない限り、相続が完了しない。

成年後見制度の活用

判断能力を失った相続人のために、成年後見制度を利用して代理人を立てるのが一般的です。以下に手順を説明します。

1. 成年後見人の選任

法定後見の申立て: 判断能力が既に失われている場合、家庭裁判所に法定後見開始の申立てを行います。申立ては親族や利害関係人が行うことができ、必要書類(医師の診断書など)を揃えます。

後見人の選任: 裁判所が適切な後見人(親族や弁護士、司法書士などの専門家)を任命します。後見人は、本人に代わって財産管理や法律行為を行う権限を持ちます。

2. 遺産分割協議への参加

後見人が相続人の代理として遺産分割協議に参加します。

後見人は、本人の利益を守る義務があるため、法定相続分を下回るような分割案には同意しないのが原則です。ただし、合理的な理由があれば裁判所の許可を得て柔軟に対応することもあります。

3. 裁判所の監督

後見人が関与する場合、遺産分割の内容が本人の不利益にならないよう、家庭裁判所の許可が必要になるケースがあります。特に、不動産の売却や大きな財産処分が伴う場合に監督が強化されます。

具体的な手続きの流れ

相続の開始: 被相続人が亡くなり、相続人が確定する。

判断能力の確認: 相続人の中に判断能力を失った人がいることが判明。

後見開始の申立て: 家庭裁判所に法定後見の申立てを行い、後見人が選任される(おおむね3か月程度かかる)。

遺産分割協議: 後見人が本人に代わって協議に参加し、全員の合意を目指す。

協議書の作成: 合意内容を書面化し、後見人が署名。必要に応じて裁判所の承認を得る。

財産の名義変更: 遺産分割に基づき、被後見人が相続した不動産や預貯金の名義変更を行う。

注意点

後見人の中立性

後見人が他の相続人の一人である場合、利益相反の恐れがあるため、裁判所が第三者(専門家)を後見人に選ぶことがあります。仮に親族が後見人になった場合には、特別代理人の選任について家庭裁判所に申し立てる必要があります。

費用と時間

後見人選任には費用(申立費用や後見人報酬)がかかり、手続きにも時間がかかるため、早めに着手することが重要です。

遺言がある場合

遺言書があれば遺産分割協議は不要になるため、後見人を立てる必要性はありません。

具体例

ケース1: 父が亡くなり、相続人は母(認知症)と子2人。母は判断能力がないため、子が家庭裁判所に後見開始を申し立て、弁護士が後見人に選任された。後見人が母の法定相続分(遺産の1/2)を確保しつつ、子2人と協議を行い、遺産を3等分する形で合意。

ケース2: 相続人である兄が重度の精神障害で判断能力がない場合。裁判所が第三者の後見人を任命し、後見人が兄の利益を守りながら遺産分割を進めた。

まとめ

判断能力を失った人が相続人に含まれる場合、成年後見制度を利用して後見人を立てることで、本人の権利を保護しつつ相続手続きを進めることができます。後見人が代理で遺産分割協議に参加するため、他の相続人との公平性も保たれます。ただし、手続きには時間と費用がかかるため、状況に応じて早めに準備を進めることが肝要です。

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