ご本人に十分な判断能力があるうちに、判断能力が低下した場合には、あらかじめご本人自らが選んだ信頼できる人(任意後見人)に、財産管理など代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件概況」によると、任意後見制度の利用者数は、2023年(令和5年)で2,773人であり、対前年比で約1.2%の増加となっています。法定後見制度と比べると利用者数に大きな開きはありますが、増加傾向であることは間違いありません。任意後見制度は、本人が後見人や支援内容を決めることができるので、法廷後見制度と比べると自分の意思を反映させやすいです。
参考:裁判所「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月」
ここでは、任意後見制度の手続きについて解説していきたいと思います。
1.任意後見の3つの利用方法からの選択
任意後見制度は「即効型」「移行型」「将来型」の利用方法があります。
即効型 | 契約締結と同時に任意後見監督人の申し立てを家庭裁判所に申し立てる。判断能力の衰えが見え始めている場合に適している。 |
移行型 | 本人の判断能力が十分あるうちに、任意後見契約だけでなく、見守りや財産管理の委任契約も結ぶ方法。本人の状態に応じて柔軟に対応できるのが利点。 |
将来型 | 任意後見契約のみ締結し、判断能力が低下してから支援を受ける方法。本人の様子を確認する方法が限られるので、判断能力の低下を見落とし、制度利用が遅れる可能性がある。 |
2.任意後見人の選定
任意後見契約を結ぶためには、まず信頼できる任意後見人を選びます。法定後見制度では申し立てをする側で後見人候補者を出しても、家庭裁判所の判断で、申し立てられた候補者とは別の、裁判所側で適切だと思われる人を法定後見人として決定する場合があります。
それに対し、任意後見制度は、家族や友人などの身内や、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家などから、自由に任意後見人を選び契約を結ぶことになります。
自由に選択できることは本人にとってメリットと言えるかもしれませんが、判断力が低下したあとの、自分の身の回りの世話や財産管理など重要な役割を第3者に委ねることになるので、その人がどれだけ信頼できるのかが非常に重要になります。
任意後見人は特別な資格は必要なく、自由に選択できると言いましたが、以下に該当する人は任意後見人になることはできません。
・未成年 ・破産者で復権していない者 ・裁判所から法定代理人などを解任された者 ・本人に対して訴訟を起こした者やその配偶者及び直系血族 ・行方不明者 |
3.支援内容の決定
任意後見人にどのような支援をお願いするかを具体的に決めます。例えば、財産管理、医療や福祉サービスの利用支援、日常生活のサポートなどを含むことができます。
ただし、任意後見契約を結んだからと言ってなんでもサポートしてもらえるわけではなく、契約書に明記された任意後見人の代理権の範囲内に限られます。つまり、契約書に明記されていない行為は原則行うことができないということになります。
また、以下の行為については制度上認められていない行為ですので、支援をしてもらうことはできません。
・被後見人に対する介護などの事実行為 ・婚姻、離婚、養子縁組などの身分行為 ・遺言書の作成など、本人のみに認められる法律行為 ・葬儀の手配など被後見人の死亡後の事務 |
4.公正証書の作成
任意後見契約では、将来どのような支援を受けたいかを明確にし、受任者に適切な代理権を与えるための契約書を準備します。契約書は公正証書として作成されます。公証役場に出向き、公証人の立会いのもとで契約内容を確認し、公正証書を作成します。この手続きにより、契約の有効性が確保されます。
公証役場では上記の契約書以外に、本人と任意後見受任者の実印、印鑑証明書、身分証明書などが必要になります。
5.家庭裁判所への申立て
任意後見契約が成立した後、判断能力の低下が見え始めたときに、本人、配偶者、4親等以内の親族、任意後見受任者のいずれかの人から、本人の住所地の家庭裁判所に対して「任意後見監督人」の選任を申立てます。任意後見監督人は、任意後見人の活動を監視し、適切な支援が行われていることを確認して、家庭裁判所に報告を行います。
なお、以下に該当する人は任意後見監督人になれません。
・任意後見受任者 ・任意後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹 ・本人に対して訴訟を起こしたことがある者 ・未成年者 ・破産者で復権していない者 ・裁判所から法定代理人などを解任された者 ・本人に対して訴訟を起こした者やその配偶者及び直系血族 ・行方不明者 |
また、申し立て時に以下の書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
必要書類等 | 取得窓口 |
申立書類 ・申立書 ・申立事情説明書 ・親族関係図 ・本人の財産目録及び根拠資料 ・本人の収支状況報告書及び根拠資料 ・相続財産目録 ・診断書 ・親族関係図 ・任意後見受任者事情説明書 ・本人情報シート | 家庭裁判所・支部の窓口 このほかホームページからダウンロード可能 |
本人の戸籍謄本 | 各自治体の担当窓口 |
本人及び任意後見受任者の住民票 | 各自治体の担当窓口 |
本人が登記されていないことの証明書 | 法務局 |
本人の後見登記事項証明書 | 法務局 |
6.面接・調査
家庭裁判所では、提出された書類をもとに、申立人と任意後見受任者の双方に面接を実施します。面接の日時は裁判所から通知されますが、指定された日時に都合がつかない場合には、日程変更の申し出をすることができます。
本人に対する意向確認や心身の状況把握について、本人が家庭裁判所に出向くことが困難な場合、入院先などに裁判所の担当者が訪問したうえで、調査を行うことがあります。
そのほか必要に応じて本人に対する精神鑑定、親族への意向照会が行われることがあります。
7.審判
一連の調査が終了したあと、家庭裁判所が任意後見開始の審判と同時に、適任とされる任意後見監督人を選任します。
選任後、本人、任意後見受任者及び任意後見監督人に対して、審判書が郵送されます。
審判書が郵送されたあと、裁判所の嘱託により、法務局に後見登記がされます。
まとめ
任意後見の手続きについては以上となります。法定後見と違い監督人の選任が必須で、任意後見人の報酬以外に監督人に対する報酬が必要になったり、任意後見人には取消権がないなどデメリットはありますが、希望する支援内容を自由に、かつ具体的に決めることができ、後見人についても自分で選べるなど、自分の意向を反映させやすい制度になっておりますので、将来の備えとして検討することもよいでしょう。