法定後見制度は、現に認知症などにより判断能力が低下した人の生活支援や財産管理支援に用いられる制度です。最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件概況」によると、法定後見制度の申立件数は、2023年(令和5年)で40,951件と、前年比約3.1%の増加となっており、高齢社会の進展とともに、認知症患者の増加や、家族等の支援を受けることが難しい高齢単身世帯が増えることが予測されており、今後も申立件数の増加が見込まれます。
参考:裁判所「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月」
ここでは、法定後見制度の手続きについて解説していきたいと思います。
1.申立人の確認
家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる人を確認します。誰でも申し立てができるわけではなく、本人、配偶者、四親等内親族など法律上、申立人は限定されています。申立人は家庭裁判所からのヒアリングに応じ、手続き費用の負担を負うことになりますので、申立人の役割について理解をしておく必要があります。
なお、「成年後見関係事件の概況」によると、令和5年度における本人以外で申立した人の割合をみると、本人の子が20.0%、市区町村長が23.6%となっており、身近に頼るべき親族がいない単身世帯の増加が影響していることが見てとれます。
参考:裁判所「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月」
2.必要書類の収集と申立書の作成
後見開始の申し立てをするにあたり、かかりつけ医などが作成する診断書が必要になります。診断書には「成年後見」「保佐」「補助」の項目があり、本人の状態に応じてチェックを付すことになります。なお、この診断書で確定するのではなく、調査官の面接などの調査や鑑定などの結果に基づき、最終的に家庭裁判所が判断します。
申し立ての書式には「申立書」「申立事情説明書」以外に、後見人等候補者の情報を記載する「後見人等候補者事情説明書」本人の親族関係を明らかにする「親族関係図」本人の財産状況がわかる「財産目録及び根拠資料」などがあり、これらは家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
申し立てに必要となる書類については以下に記します。
必要書類等 | 取得窓口 |
申立書類 ・申立書 ・申立事情説明書 ・親族関係図 ・本人の財産目録及び根拠資料 ・本人の収支状況報告書と根拠資料 ・後見人等候補者事情説明書 ・親族の同意書 ・診断書、診断書付票 | 家庭裁判所・支部の窓口 このほかホームページからダウンロード可能 |
本人及び後見人候補者の戸籍謄本 | 各自治体の担当窓口 |
本人及び後見人候補者の住民票 | 各自治体の担当窓口 |
本人が登記されていないことの証明書 | 法務局 |
3.面接の予約
必要な書類の準備ができたら家庭裁判所への申立てをすることになりますが、あらかじめ提出先の裁判所に面接日の予約をする必要があります。また、面接日の3~7日以内に申立書類の提出を求められますので、余裕を持った予定を組むことが肝要です。
なお、提出先の裁判所は、本人の所在地を管轄する家庭裁判所になります。
4.審理の開始
必要書類を提出し申立てをすると、申立書類の審査や本人の状況などを確認するための面接を行うことになります。
審理の内容は以下のものがあります。
●鑑定
本人に判断能力がどの程度あるかを医学的に判定するための手続きです。提出した診断書とは別に、家庭裁判所が別途医師に鑑定依頼する形で行われます。ただし、判断能力の低下が著しいことが、親族からの情報や診断書などで明らかな場合は省略されることもあります。
●面接
申立人や後見人候補者に対し、申立に至る事情、本人の生活状況、判断能力、財産状況や、後見人候補者の欠格事由の有無、適格性に関する事情などが確認されます。
本人に対する調査も行われますが、家庭裁判所に出向くことが困難な場合、入院先等に裁判所の担当者が訪問したうえで、調査をすることがあります。
●親族への意向照会
家庭裁判所は、審理の参考とするため、本人の親族に対して、書面などにより、申立の概要、後見人候補者の情報を伝え、これらに関する意向を紹介する場合があります。
5.審判
一連の審理が終了した後、家庭裁判所は、後見等の開始の審判と同時に適任とされる成年後見人等が選任されます。状況により成年後見人等を監督する「監督人」が選任されることもあります。なお、保佐や補助開始の場合には、必要な同意権、取消権、代理権を定めることになります。
6.登記
審判書が成年後見人等に届けられ、2週間以内に不服申し立てがされなない場合、後見開始審判の法的効力が確定します。確定後、裁判所から法務局に後見登記の依頼がされます。後見登記ができたら、後見人等には家庭裁判所から登記番号が通知されます。
登記番号は、本人の預金口座の解約や財産調査などの各種手続きを行う際に必要となる登記事項証明書を取得するときに使う番号のことです。登記番号が手元に届いたら、法務局に申請して登記事項証明書を取得することになります。
手続に関しての解説は以上となります。これまで見てきましたが、必要書類は多く、手続きは煩雑です。個々人の状況により異なりますが、一連の手続きが完了するまで3~6か月かかることがあり、即応性が低いなどのデメリットがあります。しかし、本人の権利を守るために有用な制度であることは間違いないので、普段からご家族と話し合い、将来に備えた準備を進めておくことが肝要かと思われます。